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米同時多発テロと日本での議論

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米同時多発テロと日本での議論

5月2日、オサマ・ビンラディンが殺害されて10年が経った。その約4月後には、ビンラディンの組織が引き起こした米同時多発テロから20年が来る。9月11日だ。アメリカのジョー・バイデン大統領は、この日までにアフガニスタンから軍を撤退させると発表している。

少なくともアメリカにとっては、アフガニスタンの戦争が終わる。今年は、さまざまな意味で節目の年である。この20年間の国際政治の流れをふり返る良い機会だ。まずは、その後の事件の展開の方向を決めた米同時多発テロの検証が、その作業の起点となるだろう。20年の時が、この事件を客観的にとらえる距離感となるだろう。

さて、個人的な感慨が許されるならば、あの事件の引き起こした衝撃の一つは、日本の言論界の対応であった。

ネット上では、テロは米ブッシュ政権やユダヤ人の陰謀だといった類の根拠なき解説が出回っていた。その論拠はなんだったのか。ユダヤ人は、テロの犠牲になっていない。ハイジャックされた民間の旅客機が世界貿易センタービルに衝突する映像があれほど綺麗なのは、事前に事件が知られていたからだ。そうした「証拠」に依拠した議論がネットからあふれ出して活字にもなっていた。それも著名な大学の教員やジャーナリストが関与している刊行物が、そうした論調を流布していた。陰謀論者でじっさいにテロの現場であるニューヨークなどに足を運んだ者を知らない。言論人としては無責任の極みである。またその言論を謝罪したという話も耳に届いていない。陰謀論を未だに信じているのだろうか。あるいは陰謀論を流布した事実さえ忘却したのだろうか。

陰謀論の流布は3千人の犠牲者への冒涜である。その中には24人の日本人もいた。世界貿易センタービルには多くの日本企業が事務所を構えていたからだ。筆者もニューヨーク留学中にマンハッタンの南端の貿易センタービルを良く見上げた。夜遅くにも明るいフロアは、日本企業の事務所だと聞いたのを思い出す。

念のために申し添えたい。多くのユダヤ系市民が犠牲になっている。毎年行われる記念日の慰霊行事には死亡した多くのユダヤ教徒の名前も読み上げられている。また映像が素晴らしいのは、通常から天気予報番組などのために世界貿易センタービルを撮影するカメラが設置されていたからである。

ふり返ると、同時多発テロがらみの陰謀論は、ネットが偽情報を拡散させるという現象の走りだったのだろうか。この現象は、トランプ大統領の時代になってフェイク・ニュースという名称で言及されるようになる。

陰謀論を排除するならば、それではなぜテロが起こったのか。だれがテロを引き起こしたのか。動機はなんなのか。そうした疑問が湧いて来る。そうした疑問に答えるべく、事件の詳細に関してアメリカ議会の超党派による調査報告書が2004年に出版されているが、いまだに日本語の全訳はない。

この数百ページの報告書がテロの日本人犠牲者のご遺族によって翻訳され、出版の機会を求めている。金融マンだった息子の陽一さんをテロで失った父親の住山一貞氏が、この翻訳を行った。全訳という途方もない労力を要する作業に取り組まれたのは、危機意識からだという。一つには、あの事件を知らない世代が育ちつつある。また、陰謀論が根強く流布されている現状がある。もとからベストセラーになるという類の書籍とはならないだろう。しかし、全訳が全国の図書館に所蔵されれば、この問題に興味を抱くすべての一般市民の知的なよりどころとなるだろう。また全訳は、日本における陰謀論に対する強い反論となるだろう。そして事実と異なるフェイクの流布の再発を阻止する力となるだろう。そして、それが犠牲者の方々へのなによりの供養となるだろう。

この翻訳の出版をクラウド・ファンディングで応援しようとの動きがある。そのホームページのサイトは次の通りである。読者の支援をお願いしたい。

「911テロの真相を知るため米国調査委員会報告書を日本語刊行したい」

https://readyfor.jp/projects/911report

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