中止や延期の世論は「なかったこと」に

「世論調査で反対や中止、延期ばかり」なのがいつの間にか「有観客か無観客か」になりオリンピック中止、延期の世論は「なかったこと」に尾身茂会長の提言を無視菅義偉総理大臣がG7共同宣言で
東京五輪を国際公約

論点ずらしてゴール地点もずらす


2021.06.29 07:00
東京五輪、中止や延期の世論は「なかったこと」に 朝日・読売も同調
東京五輪は「観客上限1万人」で開催──それがさも当然であるかのように話が進んでいるが、多くの国民は「おい、中止するかどうかの議論はどうなったんだ」と憤っているのではないか。

菅義偉・首相も、開催都市の小池百合子・東京都知事も、組織委員会の橋本聖子会長も、現在に至るまで「今夏開催を決断した」と正式に表明していない。国民の前で「開催か、中止・延期か」の議論がなされないまま、そして「開催する理由」も示されないままいつの間にか「開催の規模をどうするか」に話がすり替わった。

国民の半数以上はいまも今夏の開催を望んでいるとはいえない。

直近の世論調査をみると、朝日新聞(6月19~20日)では「再延期」(30%)と「中止」(32%)を合わせて6割以上が今夏開催に反対し、読売新聞(6月4~6日)でも、「中止」(48%)「無観客開催」(26%)「観客数を制限して開催」(24%)の順で中止と制限付き開催が拮抗(「延期」の選択肢なし)している。

他社の調査でも、今夏の「有観客開催」を求める声は日経18%、毎日22%、産経・FNN33.1%、NHKも35%しかない。

それなのにいつ、誰が、どんな理由で「開催」を決めたのか。

国民の「五輪中止」感情が最も高まったのは6月2日。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂・会長が国会で「今の状況で(五輪を)やるというのは、普通はない」と発言したのがきっかけだ。

尾身氏はその後も五輪開催の危険性を訴え、官邸は国民の中止論が勢いづくのを怖れた。

菅首相のブレーンとして知られる竹中平蔵・パソナ会長は、「分科会がオリンピックのことを決めるわけじゃないのに、明らかに越権」とテレビで批判を展開。官邸側の危機感をこう忖度した。

「分科会がまた変なことを言う可能性があって。(分科会が)社会的に専門家だと思われてるから。それ(分科会)に対して反対する決断をするのが政治的に難しくなる可能性があります」

官邸も“鎮圧”に乗り出す。

尾身氏が緊急事態宣言の延長期限の6月21日までに分科会などの専門家有志で五輪に向けた提言文書を出すことを表明すると、「総理の指示で西村康稔・経済再生相と田村憲久・厚労相を中心に対策チームが組まれ、提言に『中止』の文言が入るとわかると、尾身氏らに発表を引き延ばすように働きかけて時間を稼いだ」(官邸スタッフ)。

その間に行なわれたのが、6月13日のG7(主要7か国)首脳会議だ。

日本政府は共同宣言に、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する」と盛り込むことに成功する。

今年4月の日米首脳会談の共同声明では、「開催努力の支持」にとどまっていたが、サミットで主要国首脳から“開催の承認”を取り付けたのだ。元レバノン大使の外交評論家・天木直人氏が指摘する。

「共同宣言の内容は基本的にシェルパと呼ばれる各国の外交官が1年近く協議を重ねて詰める。日米首脳会談やサミットの交渉スケジュールから逆算すると、菅首相は少なくとも訪米の前、今年3月頃には日米首脳共同声明の内容は物足りないものになると判断し、サミットでより踏み込んだ内容にするように事務方に指示していたはずです。その頃には、はっきり五輪開催の結論を決めていたことがわかる」

腰砕けになった尾身氏らはサミット後の6月18日に提言を発表したものの、サミットで開催が国際公約になったことで「(中止提言は)意味がなくなった」と削除したことを明らかにした。

■国民感情は見て見ぬフリ
6月21日の5者協議では、専門家の提言に“次善の策”として盛り込まれた「無観客」「政府のコロナ基準より厳しい人数制限」「観客の都道府県をまたぐ移動の原則禁止」という3条件はことごとく無視され、「上限1万人の有観客開催」が決まった。

菅首相は「緊急事態宣言が必要になれば、無観客も辞さない」(6月21日の会見)と述べたが、緊急事態宣言を発出するのは当の菅首相である。つまり“私が宣言しないかぎり有観客で開催”“無観客など例外中の例外”という意味なのだ。組織委関係者が語る。

「有観客は当然としたうえで“できるだけ入れたい”というのが菅首相やIOCの考え。政府のイベント基準の上限1万人に、大会関係者や小中学生の観客を別枠にするというあの手この手で観客数を上乗せし、開会式は大会関係者やスポンサー枠を含めて約2万人まで入れる方向で調整している。専門家の提言に反する話だ」

コラムニストの小田嶋隆氏は「尾身氏は政府の論点ずらしに一役買った」とみる。

「本来なら議論は優先度の高い論点から判断を決めていくものです。今回は東京五輪を開催するか否かを最初に決めるべきでした。

ところが、尾身氏は『普通はない』と言いながら、同時に『やるなら開催の規模をできるだけ小さくして』とも付け加えた。それが失言だったのか確信犯だったのかは分かりませんが、いずれにしても『開催するのであれば』という前提で仮定の議論が進み、みるみる論点がずらされていった」

確信犯的に論点ずらしに加担したのが東京五輪の公式スポンサーでもある大新聞だ。

中でも狡猾だったのが社説で「中止論」を掲げていた朝日新聞だろう。6割超が中止・延期を求めた前述の世論調査を報じる記事の見出しは、なぜか〈五輪『無観客で』53%〉だった。この数字は開催を前提として観客数をどうすべきかの調査結果である。「中止」を求めた6割の世論を“なかったこと”にしたのだから、政府や組織委とやっていることに変わりはない。

もともと五輪開催に積極的だった読売新聞も中止48%、無観客26%の世論調査に〈東京五輪『開催』50%、『中止』48%〉の見出しをつけた。賛成の国民のほうが多いと言いたいのだろうが、政府が進めている有観客での開催には24%の支持しかないことは強調しない。

「政府は観客1万人なら安心安全というエビデンスを何も示していないし、感染者が何人に増えれば無観客にするかの基準も示していない。それなのに新聞・テレビは“もう開催は決まったのだから”と言わんばかりに野球やサッカーなどの五輪代表が内定したと大きく報じて開催を煽っている。政府やIOCと一緒になって国民に説明しないまま五輪開催で強行突破しようとしている」(小田嶋氏)

開催に懸念を示す声を封殺して走り出した東京五輪。「開催を決めた責任」を誰が取るのかは、ハッキリさせておかなければならない。
※週刊ポスト2021年7月9日号

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